日食に関するよくある質問を、Q&A形式でまとめてみました。
質 問
1.日食って何?回 答
日食(にっしょく)は、月が地球を周る過程で太陽を隠す現象です。 この時の月は、地球には太陽の影の部分を向けているため、全く見えません。 このため、日食が起こると、太陽の一部(部分日食)が欠けたように見えたり、 全部(皆既日食)が見えなくなったりします。
*
月は地球の周りを、およそ1ヶ月で1周しています。このため、日食は毎月起こりそうな 気がしますが、そうではありません。月の軌道は少し傾いているため、通常は太陽の少し 北側か南側をすり抜けており、なかなか太陽を隠すことはありません。 太陽の一部分のみを隠す「部分日食」は、見える範囲が割りあい広いので、日本でも数年 に一度程度は見ることが出来ます。全地球的には、毎年のようにどこかで日食が起こって います。
*
天体の接近や食は、古代から人々の畏れや崇拝の対象となっていました。九州が発祥とさ れる「天岩戸(あまのいわと)」の神話も、日食が題材になったものと言われています。 現代では、日食は純粋な天文現象であることが分かっておりますが、大自然の営みを目の 当たりにすることの出来る絶好の機会です。
皆既日食 |
---|
金環日食 |
2.皆既日食って何?
皆既日食(かいきにっしょく)とは、月が太陽の全部を隠した状態です。
*
太陽は月の約400倍の大きさがありますが、距離も400倍遠方にあるため、見かけの大きさ は偶然(?)にもほぼ同じです。ところが、月と地球の公転軌道は厳密な円ではなく距離が変わるため、見かけの大きさは変化し、太陽よりも小さい時と大きい時があります。 日食において、その中心線上に観察者がいる場合、月の見かけの大きさが太陽よりも大き ければ、太陽を全て覆い隠す状態となります。これを皆既日食といいます。 一方、逆に月の見かけの大きさが太陽よりも小さいと全てを覆い隠すことが出来ず、薄皮 状に太陽面が残ります。これを金環日食といいます。
*
皆既日食や金環日食の見られる範囲は、帯状のごく狭い範囲です。これを「皆既日食帯」 「金環日食帯」といいます。帯の幅は狭すぎてなかなか見ることが出来ないので、通常は その帯の地域まで旅行して観察することになります。太陽の一部が欠けて見える「部分日 食」は見える範囲が広いので、旅行することなく数年に一度見られます。
4.曇っていると見えないの?皆既日食中は、急に夜のように暗くなり、皆既が終わる瞬間に急に明るくなります。 部分日食や金環日食では、まだ太陽面が見えているため、夜のような暗さにはなりません。 少しでも太陽面が見えていると十分に明るいのです。
皆既日食中には、太陽面が明るすぎて、普段見ることの出来ないコロナ(太陽の大気)を、目で直接観察することが出来ます。また、コロナ自身がわりと明るいので、皆既中でも月夜 くらいの明るさはあります。皆既中には、明るい星も観察することが出来ます。
5.日食の観察の仕方 −安全に観察するためには−残念ながら見られません。旅行しての観察の場合は、事前に調べてなるべく晴天率の高そ うなところを選びましょう。 曇った場合でも、皆既中の夜のような暗さを体感することは出来ます。
太陽観察用保護メガネ | 太陽投影板 |
---|
部分食の間は、太陽面が見えているので、安全に十分配慮する必要があります。 太陽に望遠鏡を向けることはたいへん危険を伴い、直接裸眼でのぞくと失明のおそれがあ ります。また、肉眼で観察する場合、プラスチックの下敷きやカメラ用のNDフィルターで は赤外線(熱)を通してしまうため、 長時間見続けると網膜に障害を起こす恐れがあります。 できれば当館のような公共の天文施設を利用して観察して下さい。自宅で観察される場合 には、投影法などの安全な方法で観察して下さい。
◎ 太陽観察用の保護メガネ
◎ 望遠鏡の観察では、太陽投影板を使用
○ 感光した白黒写真フィルムの切れはし
× プラスチックの下敷き(たいへん危険)
× カメラ用NDフィルター
× 感光したカラー写真フィルムの切れはし「日食観察用の保護メガネ」は、現象日までには市販品が多数登場することでしょう。 なお、皆既中は肉眼で見ても安全です。むしろ貴重な瞬間を是非その目で観察して下さい。
熱中症に充分注意して観察しましょう 夏の非常に強い日差しの中での太陽の観察です。熱中症に充分注意して観察してください。
○ 必ず帽子を着用しましょう。
○ ときどき日陰で休憩しながら観察しましょう。
○ 適時に水分を補給して観察しましょう。
○ 万一具合が悪くなったら、風通しの良い涼しい環境で、衣服を脱がせ体を冷やします。
意識がない場合には緊急事態ですので、ただちに 119番通報の必要があります。
日食の進行過程を示すもので、皆既日食の場合は時間順に、
「第1接触」部分食の始まりの瞬間
「第2接触」皆既の始まりの瞬間
「第3接触」皆既の終了の瞬間
「第4接触」全過程の終了の瞬間です。英語ではそれぞれ「First contact」「Second contact」「Third contact」「Fourth contact」 といいます。
食分とは日食において、月に隠された太陽の直径の比率です。 例えば、「食分0.5」は、太陽直径の半分まで食の進んだ状態です。(見えている太陽表面 の面積の割合ではありません。) 「食分1.0」が皆既の始まりの瞬間と終了の瞬間です。食分が1以上の時が皆既日食中です。
太陽を取り巻く「太陽の大気」をコロナと呼びます。通常は太陽面が明るすぎて、専用の 望遠鏡を使わないと観察できませんが、皆既中はその姿を見ることができます。 太陽の周りを真珠色に淡く取り囲んで輝き、太陽面に近いところほど明るく、遠くなると急に薄くなります。 人間の眼は、大きく明るさの異なるものでも、同時に見ることの出来る性質があるため、内部から外部の広い部分 のコロナを観察することが出来ます。コロナは、太陽から宇宙空間に向かって流れ出てい るため、放射状の筋模様がありますので、観察の際に注目しましょう。 ちなみにコロナとは「王冠」という意味があります。
第2接触と第3接触において、太陽がまるでダイヤモンドの指輪のような形に見えるので このように呼ばれます。皆既日食において、最も美しいと称される瞬間です。 これは、月の谷の隙間から極めてわずかな太陽面が見えている状態で、その太陽面がダイ ヤモンドに、内側の明るいコロナが太陽を取り囲んでリングに見たてたものです。 皆既中は周囲が暗くなり、目が暗順応するので、その後に起こる第3接触が特に美しいとされます。
第2接触と第3接触において、月と太陽の境界の部分で、月の外周の谷の部分から太陽光 が漏れて数珠のようにつながっている現象です。イギリスの天文学者ベイリーの名前が語 源となっています。
ヨーロッパで見られたシャドーバンド 1870年12月22日(イタリア)での皆既日食でスケッチされたもの。家の白壁の上を横切るのが見られた。(J.L.Cadoria) |
11.「シャドーバンド」ってなんですか
皆既前と皆既後の短い時間帯に、地面や建物の壁に淡いさざなみのような影が発生する現 象です。コントラストが低いので、白壁の建物か、地面に白い布を敷くと観察 しやすくなります。 シャドーバンドは、皆既部分と部分日食部の温度差の急激に変化する空気の境界で、光が 全反射または異常屈折を起こし、これが低空の大気の動きと重なって起こる現象とされて います。
*
坂上務(九州大学名誉教授/気象学)氏によると「食分99%以上で発生する、98%では見える 可能性がある」とのことです。また、皆既日食であれば必ず発生するわけではありません。 坂上先生の観測したシャドーバンド(1948年 礼文島)は、「第2接触の56秒前から見え始め、 第3接触終了後75秒間みられた。影の形は、長さ 100cm 幅20〜30cm の三日月形で連続し てつながっていた」と記録されています。
*
2009年7月の日食では、皆既帯でなくとも、種子島全島,奄美大島全島ではシャドーバンド を観察できる可能性があります。
21世紀に起こる全皆既日食の一覧はココ をご覧下さい。この日食は「今世紀最大」と呼び声をよく耳にします。何をもって最大と呼ぶかですが、 この日食においては、皆既時間が最長である点で今世紀最大と呼んでよいものです。 2009年7月の日食の皆既の最長時間は 399.5秒で、これに続くのは、2027年8月2日の アフリカ北部で見られる皆既日食の 383.3秒です。
2008年から2011年に起こる日食を以下の表に示します。 (日付は世界時)
年月日(UT) 種別 見られる地域 2008年 2月 7日 金環日食 南氷洋 2008年 8月 1日 皆既日食 北極,ロシア,中国 2009年 1月26日 金環日食 アフリカ南方,インド洋,東南アジア 2009年 7月22日 皆既日食 中国,日本(トカラ列島),太平洋 2010年 1月15日 金環日食 アフリカ,インド洋,中国 (西日本で、部分日食が見られる) 2010年 7月11日 皆既日食 南太平洋 2011年 1月 4日 部分日食 東ヨーロッパを中心とする地域 2011年 6月 1日 部分日食 東日本でわずかながら見られる 2011年 7月 1日 部分日食 南氷洋 2011年11月25日 部分日食 南氷洋 また、前回日本国内で見られた金環日食と皆既日食は以下の通りです。 (日付は日本時)
年 月 日 種別 見られた地域 1943年 2月 5日 皆既日食 北海道 国内陸地で部分食を含む全経過の見られた最近の皆既日食 1948年 5月 9日 金環/皆既日食 礼文島(北海道) 食分1.0。 金環と皆既の境界にあたる日食 1958年 4月19日 金環日食 奄美大島〜種屋久 1963年 7月21日 皆既日食 北海道東部 皆既は北海道東部のみで、日の出帯食 1987年 9月23日 金環日食 沖縄本島 1988年 3月18日 皆既日食 小笠原近海 皆既帯は、国内の島しょ部には上陸していない 次回日本国内で見られる金環日食と皆既日食は以下の通りです。 (日付は日本時)
年 月 日 種別 見られる地域 2012年 5月21日 金環日食 九州南部から東北南部の広域 2030年 6月 1日 金環日食 北海道 2035年 9月 2日 皆既日食 北陸〜関東地方
14.日食を観測することで何が分かるのですか?
皆既日食は、かつては主にコロナを直接観測するために、日本を含む各国から遠征隊が派遣されました。また、有名なアインシュタインの一般相対性理論の検証に利用されたことでも、よく知られています。
一般相対性理論では、極めて大きな質量の近くを通過する光は、重力の影響を受けて経路が曲げられるとしています。太陽は、極めて大きな質量があるので、その近くの恒星の位置がずれて見えるはずです。しかし、太陽はまぶしすぎて近くの恒星を観察することが出来ないので、太陽が隠される皆既日食が利用されたのです。
現代では、皆既日食でなくともコロナグラフや人工衛星により、常時コロナを観測することが出来ます。しかし、様々な専門分野において、皆既日食は今なお科学の発展を目的として観測されています。例えば、位置天文学の分野においては、月の輪郭の微妙な凹凸を測量することや、太陽直径の変動の研究のために利用されています。また、日食は古くからよく観察されており、多くの文献にその記録が残っているため、地球の自転の遅れの研究などに活用されています。
この日食の特徴は、なんといっても継続時間が長いことです。 皆既帯に行ける方は、他の皆既日食よりも長い皆既時間を楽しむことが出来ます。
*
とはいえ、残念ながら皆既帯の中心はアクセスの困難な海上です。皆既帯の北限付近と 南限付近は、比較的アクセスの良い 屋久島, 種子島, 奄美大島 が当たっています。 当然ながら、これらの地域では皆既時間が短くなってしまいます。 しかしながら、日食をよく知る人々には、このような「皆既帯の端」を好んで布陣する 方が多いのも事実です。これは、皆既帯の端の部分は、太陽の縁を観察する時間が長 くなるため、特に美しいとされるダイヤモンドリングやベイリービーズを長い時間 楽しむことが出来ることが主な理由です。 今回の日食で、第2,第3接食のダイヤモンドリングを、皆既帯中央部で5秒間見ること が出来るとすると、皆既帯の端の部分では、計算上で約40秒も楽しむことが出来ること になります。皆既帯の中央部に行くことは、交通の障壁がありますが、実は「皆既帯端部 ほど玄人(くろうと)好み」なのです。
*
比較的アクセスが良いとはいえ、屋久島, 種子島, 奄美大島 でも既に宿泊施設の予約は 満杯になりつつあり、皆既帯に入ることの出来る人はあまり多くはありません。 それでも、全国で「部分日食」を見ることが出来ます。これほど大きな食分の部分日食を 見ることもまず経験することの出来ない大チャンスですから、この機会を逃さずに観察 してみて下さい。ちょうど、夏休みの期間ですから、学校での観察会も行われることで しょう。
ホームへ戻る | 日食メニューへ戻る |