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2日の衛星公開日に、内之浦と東京を結んで行われた記者会見の様子を紹介します。 JAXA側から質疑応答に当たったのは、ASTRO−Fプロジェクトの衛星保安主任・中川貴雄 (なかがわ・たかお)教授と、M−Vプロジェクトマネージャ/実験主任の森田泰弘(もりた・やす ひろ)教授のお二人です(以後敬称略)。 打ち上げから観測に入るまでの流れやミッションの内容、なぜ観測に赤外線を使うのかなどがよ く分かります。各報道機関の記者は、一般の人に伝わりやすくするための表現に気を使いながら質 問しています。会見室の雰囲気を感じてください。 司会― それではただいまから質疑応答を始めさせていただきます。本日JAXAの東京事務所と テレビ会議でつないでおりますので、質問の際にはマイクを使用させていただきますので、 ご了承のほどよろしくお願いいたします。なお質問される際は、大変恐縮ですけど、お名前 を発言していただきまして、挙手にてお願いしたいと思います。順番はまず、内之浦のほう からうかがいまして、その次に東京事務所に移したいと思いますので、まずこちらからさせ ていただきます。では、挙手をお願いいたします。 NHK− NHKですけれども、衛星を分離した後に、いかにして、いつ目的の軌道に乗るのか、 どのような過程を経て乗るのか、ということと、その後のフェイズをですね、何月下旬ごろ とか上旬ごろとかいう形で教えていただけますでしょうか。 森田− 「すざく(※科学衛星ASTRO−EU、M−V−6号機で昨年7月打ち上げ)」の時と 同じで、衛星の分離信号というのはございません。ということで、ロケットの3段が燃え終 わるところまで、この時、この状態まで内之浦からロケットを監視できます。燃え終わった ところで軌道が確定して、ロケットはこういう軌道を飛んでいきますと、分離されたAST RO−Fがこういう軌道を飛んでいきますということが確定します。そのあと実際に衛星が どういう軌道に乗ったかという詳細については、その衛星の追跡の結果を待たないと正確な ところは分からないということですね。その流れについては…(中川教授に代わる) 中川− その後についてはですね、いろいろな地上局で追尾を行いますけれども、衛星打ち上げ40 数分後に、チリのサンチアゴで最初に見えるはずです。その前にオーストラリアのパースで も見えるかもしれませんが、これは確実ではありませんので、サンチアゴで運営します。 ここの時点でおそらく分離したかどうかということは、はっきり言えると思います。実はぐ るりと回って戻ってきた時に日本の上は通りませんのでわからないんですが、もう一回ぐる りと回って一周半したときに、もう一回サンチアゴに戻ってきますが、それが打ち上げ後2 時間程度になると思いますが、この時点では、例えば太陽電池を開くといったような衛星に とって一番大切な作業が行われたかどうか、ということが分かると期待しております。 NHK− 中川先生にお聞きしたいんですが、およそ40分後のサンチアゴ局の捕捉で、ロケット の打ち上げの成功は確認できるという理解でよろしいんでしょうか。 中川− 確認できると思います。 NHK− あと予定の軌道に…、衛星が自分で噴射して、それから乗りますよね、それが大体いつ ごろになりそうか、ということを知りたいのですが。 中川− お配りした資料にもありますように、最初投入される軌道は、遠地点が750キロメート ル、近地点が290キロメートルという楕円軌道に入ります。最終的な軌道は750キロメ ートルの円軌道で、これ、自分で上がっていくことになりますが、およそ2週間弱必要とし ます。 NHK− そうすると、2月の21日に打ち上げるとすれば、3月の何日頃を予定していると考え ればいいですか。 中川− 実際にロケットで打ち上げられた軌道等によってですね、その後われわれが目的とする最 終軌道にまで上がるときには、多少…ドンピシャで入るかもしれないし少しずれるかもしれ ないという不確定性があるので、はっきり何日ということは申し上げられませんけれども、 非常にうまくいくとお雛さまに間に合うかもしれないし、もうすこし過ぎるかもしれないと、 そんな感じと思っていただければと思いますよ。 NHK− それでは3月の上旬ということで理解しておいてよろしいですか… 中川− はい2月の21日というのが昨日宇宙開発委員会で発表されましたが、2月の21日に打 ち上げられれば3月の上旬には最終的な軌道に入ると期待されます。 NHK− 2ヵ月後に観測を…うまくいけば開始するということなんですが、4月の下旬ごろから うまくいけば…観測開始という理解でよろしいんですか。 中川− 観測開始というのに二つの意味がありまして、試験的な観測はそれより早く始めます。今 見ていただいたASTRO−Fという衛星は、打ち上げる時にはここ(望遠鏡の開口部)に 蓋がついておりますが、打ち上げ2週間後、すなわち今申し上げましたように、打ち上げて 最終的な軌道に入ったということが確定し、衛星の姿勢制御など基本的な機能が確認された 後、蓋を開けます。蓋を開けたら即座に試験的な観測は開始します。そういう意味において は、約2週間後には試験的な観測を開始いたします。観測を行うのにもいろいろなパラメー タを決める必要があります。例えば写真を撮るときにもf11で1/250秒で撮ったほうが いいとか、f8で1/125秒で撮ったほうがいいのかと、いろんなパラメータの決定があり ますが、やはり空を見る時にも、そういった決定をしなければならないので、こういったパ ラメータの決定を2ヵ月、それからかけて行い、4月の下旬には本観測に入れるようにと期 待しております。ま、打ち上げの日にもよりますが… 司会− 続きましてご質問をいただけますでしょうか。 西日本新聞− 西日本新聞です。よろしくお願いします。改めてなんですけれども、現在の作業の 進捗状況と今後の予定、それと昨日の種子島のH−Uの8号機が遅れたことによる作業の遅 れ、作業員の方々の精神的な影響も含めてですね、教えてください。 森田− まず現在作業の進捗としては、これは予定通りでございますけれども、ロケットの第3段 の上に衛星が搭載された状態で、今電気的なチェックをしているところでございます。この 後ノーズフェアリングをかぶせて、頭胴部と申しましてロケットの第3段と人工衛星とノー ズフェアリングのかたまりを、今度は発射の整備棟に移しまして、ロケット全体を組み立て るという運びになっております。この結合の日が2月7日になっております。最終的にはリ ハーサルを、電波テストという名前で呼んでますけれども、この試験・リハーサルを2月11 日の夕方から始めまして、12日の早朝ですね、だいたい6時半ぐらいを狙って、実際の打 ち上げと同じようなシーケンスを流すという試験を行います。いったんこの試験を終わった ところでホールドしまして、実際の打ち上げ日2月21日を狙いまして、その3日あるいは 4日前から準備作業を再開するという運びになってます。全体の流れとしてはそうですね。 で、現場の士気としてはまあ、作業が種子島の打ち上げの延期で影響を受けたということは ございません。われわれは当初から最速の打ち上げ日、2月16日を目指して進めていると ころでございまして、これに対する影響は一切ございません。ま、われわれは淡々と予定通 り作業を進めて、2月21日という新しい打ち上げ日が予定として設定されましたが、ま、 今心をすっかり切り替えて、新しい打ち上げ日に向けて再スタートしようというところでご ざいまして、決心としては揺らぐところがないなという風に考えています。衛星のほうはい かがですか。 中川− 衛星のほうも全く同じで、衛星のほうの作業といたしましても2月16日を目指して作業 を進めてきましたし、電波テストと呼ばれていますリハーサルまでそのまま進めていきます。 司会− よろしいでしょうか、それでは続きましてご質問いただけますでしょうか。 南日本新聞− 南日本新聞です。衛星のほうでお尋ねなんですが、先日「すざく」が一回ヘリウム の原因で不具合が出たはずなんですが、あれにも同じヘリウムを使っていたかと思いますが、 そのあたり問題はないということでよろしいでしょうか。 中川− はい、問題はありません。液体ヘリウムという気体は、非常に極低温を発生させることが できるんですが、同時に扱いが難しい気体で、そのためにわれわれとしてはASTRO−EU すざくXRS(X線微少熱量計)、残念ながら失敗をしまして、思ったほど◆◆(聞き取れず) することができませんでした。この教訓はもちろんASTRO−Fにも生かされておりますし、 ASTRO−Fとすざくでは設計が違っておりましたので、これはもちろんすざくの失敗を受 けましてもう一度徹底的に見直しを行いましたが、なんらこの点に関しては問題ないというふ うにわれわれは考えております。 司会− 続きましてご質問いただけますか。 NHK− すみませんNHKですが、今回の打ち上げる時間帯も非常に早朝なんですけれども、こ れは衛星の軌道に何か関係があるのか、それをもし理屈があれば教えてください。 中川− はい、そうです。取材をしていただく方にも決して優しくない時間帯で大変申し訳ないん ですけれども、お配りした資料で最終的な軌道というのを見ていただければ大体の状況という のがお分かりいただけると思うんですが、お配りした資料の後ろから5枚目かな? 「AST RO−Fの軌道と姿勢制御」という絵なんですけれども、これを見ていただければ大体分かる かと思うんですけれども、ASTRO−Fというのは、ほぼ極軌道、南と北の間を飛ぶ軌道に 入ります。その場合に、この絵にありますように、昼夜境界線−昼と夜の境目を飛ぶことにな ります。したがって打ち上げ時間としては1日2回、朝に打つか、夕方に打つかどちらかにな ります。もう少し細かいことをいいますと、この時期に打ち上げようと思いますと、朝に打つ のであれば南向きに打つことになりますし、夕方に打つということにすれば北向きに打つこと になります。しかしながら内之浦から北向きに打つということは九州の上、韓国の上を飛んで いくということになりますので、それはとても許されることではない…安全上許されることで はありません。ここからは南もしくは東に打つしかございませんので、そういったことからこ の時間帯、すなわち朝6時から7時の間に打ち上げる、ということが決まっています。お分か りいただけますでしょうか。 NHK− 太陽が出ている時には打てない…ということですか。 中川− 最終的にはこの望遠鏡は冷たい望遠鏡なんです。冷たい望遠鏡ですから温かいものを見て はいけない。温かいものの最たるものは太陽なんですね。太陽を、この望遠鏡は直接見てはい けない。でもわれわれは空の広い範囲を観測したい。その両方を満足するためには、昼夜境界 線上を太陽を背にして飛ぶような形で観測を行うと、空の広い範囲を観測できるし、望遠鏡は 太陽という巨大な熱源を見ないで観測ができるということがありますので、われわれはこの軌 道を選んでいます。というわけで真昼間には打ち上がりません、申し訳ありません。 司会− 続きましてご質問される方、いらっしゃいますか。 共同通信− 共同通信と申します、よろしくお願いします。確認なんですけれども、先ほどのお話 の中に出てまいりましたロケットの組み立ては、2月7日に全て終えるという理解でよろしい のかということと、あと、本日作業していた内容について、できればでいいですが、もう少し 詳しく具体的に教えていただけますでしょうか。 森田− まず一つ目ですけれども、先ほど申し上げました2月7日というのは、頭胴部という衛星 と第3段をくっつけたかたまりを、ロケットの第2段に載せる日です。それでまだ完成ではあ りませんで、そっからまた全体の電気的なチェックをするんですね。ですからリハーサルもそ の一環で、2月の7日が初めてロケットの形が物理的に出来あがったというだけで、それから 電波テストまで電気的な試験がずーっと続くんですね。 で、今日行っている試験は、明日から…、今日からまあ準備が始まるんですけれども、いよ いよロケットの第3段と衛星のかたまりに、ノーズフェアリングという蓋をかぶせるんですよ ね。蓋をかぶせてしまうと、衛星にもロケットにもなかなかアクセスできなくなるんですね。 そのために最後の電気試験を行って、確かに蓋を閉めて大丈夫という確認をします。ですから 今日行っている試験は、ロケットの第3段の計器部に載せている搭載の電気機器と衛星に乗っ ている電気機器の状態を最終的に調べていると、そういうことです。よろしいでしょうか。 司会− よろしいですか。それではこの辺で一旦、東京の方に回したいと思いますので…、東京事 務所の大島さん、そちらにマイクをお渡ししますので、よろしくお願いいたします。 大島− はい、わかりました。それでは東京のほうから質問を行いたいと思います。質問のある社 の方は… 今ありませんので、そちらにマイクを戻します(会場から笑い)。 司会− えー、それではまたこちらにマイクが戻ってまいりましたので、ご質問のある方、挙手に てお願いします。はい、どうぞ。 時事通信− 時事通信と申します。月並みな質問になってしまうんですけれども、中川先生のほう からおうかがいしたいんですけれども、ASTRO-F自体、日本初の本格的な赤外線天文衛 星ということで、今まで海外の衛星に頼っていたというところがあると思うんですけれども、 ASTRO−Fを打ち上げることで全天サーベイとか新しい今までなかった機能がプラスされ ていると思うんですけれども、そういうところに対する中川先生のお気持ちというか、打ち上 げに向けての…何といいますか意気込みというような、そのあたりをちょっとうかがいたいな と… 中川− まず、日本としての最初の本格的な赤外線天文衛星ということで、私たちこの計画に、も う10年以上携わってきまして、これでやっと初めて打ち上がるということで、長い間苦労 したものが初めて芽を開くということで、非常に期待しております。 それでこのASTRO−Fという衛星の特徴はですね、お配りした資料にもありますよう に、赤外線で空を見る… 赤外線で空を見て、新しい赤外線の地図作りをするということに なります。そういう意味で私たちはこの新しい望遠鏡を使って、この赤外線という波長を使 って、今までにない詳細な地図を作る、ある意味新しい世界にこれから船出していく、まさ に船出で、これから出発しようとしているところに立っている気分です。だから、むかしむ かし…わかりませんが、ヴァスコダ・ガマとかコロンブスだとか、ああいう人たちがポルト ガルのぼろぼろの港から…ぼろぼろの船で大海原に乗り出していったように、それに比べれ ばここはもっと立派なものですけれども、これから大きな海にまさに漕ぎ出していこうと、 これから地図を作っていこうと…、そこには…分かりません、金であふれたジパングという 国があるかもしれませんし、香辛料にあふれたなんとかっていう国があるかもしれません。 これから新しい世界がわれわれの前に広がっていると思います。そういう意味でASTRO −Fが何を見つけてくれるか。これは非常に私たち期待しておりますし、そういう意味では 私たち非常にワクワクしております。それと同時にやっぱり、長年手塩にかけて育ててきた 衛星が、ちゃんと一人前に育ってちゃんと動いてくれよという、非常に大きな不安と…、ワ クワクした気持ちとなんとかがんばってくれという不安と、その両方を今持っているところ です。 司会− 続きましてご質問いただけますでしょうか。 NHK− ASTRO−Fが見た観測結果なんですけれども、どういうふうに運用していくのかと いうことを知りたくて…、例えば全世界に公開されるとかですね、その辺の国際協力の点につ いて教えてください。 中川− ASTRO−Fはもちろん、日本が中心になって行ってきた計画であります…が、同時に これは、まさにASTRO−Fという衛星は、人類のある意味共通の財産とも言えると思いま す。実際にASTRO−Fは、国際協力のミッションです。ハードウエア、実際の衛星自身は 日本が主体となって作りましたけれども、例えばASTRO−Fを運用するための地上局等は ヨーロッパの宇宙機関が参加しておりますし、またヨーロッパ、それから韓国の天文学者がこ のデータを解析するのにも深く関わっています。そういった意味で、ずいぶん大きなコミュニ ティーからの期待を集めた国際ミッションであります。で、この観測結果は、できるだけ早い タイミングで、全世界の天文学者に公開していくということになります。 司会− よろしいでしょうか。それでは続きましてご質問のある方いらっしゃいますでしょうか… ご質問ありませんか… なければ終了を考えておりますけれども… ございませんね、じゃ あ、東京事務所の大島さん、もう質問がないようですので、もしそちらでご質問がなければこ れで終了したいと思いますけれども… 大島− すみません、東京のほうから一つ質問がありますので、ちょっとお待ちください。 航空新聞社− 航空新聞社と申します。ASTRO−Fが赤外線天文衛星ということなんですけれ ども、ASTRO−Fの科学目的として3つの要素を挙げられていると思うんですが、赤外線 で観測することによって、宇宙の暗黒時代を探るですとか、私たちはどこから来たのか、人類 は宇宙でひとりぼっちか… ということをどのようにデータとして記録されていくのかという ことを、ちょっと教えていただきたいと思うんですけど。お願いします。 中川− はい、わかりました。ちょっと長くなるかもしれません、申し訳ありません。非常に一言 で言いますとASTRO−Fの目標は、今3つ挙げられましたが、一言でくくれば、宇宙の歴 史を探りたい… 私たちの宇宙がどうやってこういった形になってきたか、ということを知り たい。その中で私たちとしては3つの要素、宇宙の暗黒時代を探る… これは宇宙の中でどの ようにして銀河ができてきたかということを調べることになります。私たちの宇宙は、ご存知 のようにビッグバンという137億年前の大爆発で生まれたことが分かっています。それから 現在の宇宙は、非常にたくさんの銀河、星で構成されているということが分かっています。と ころがその途中、ビッグバンという大爆発・火の玉から私たちが今知っているような、こうい った非常に複雑な宇宙にどうやって進化してきたか、それはあまり分かっていません。その意 味でそれを、暗黒時代とここでは呼んでいます。まさにそのビッグバンの、非常にシンプルだ った宇宙から今の複雑な宇宙に至る最初の星、最初の銀河、その若い星、若い銀河たちを私た ちは捉えてみたい。それが私たちの目標です。それがどういう形で分かるかということなんで すが、宇宙というのは非常に面白い存在でですね、実はむかし起こったことを、今直接調べら れるという、ある意味一種のタイムマシンになっています。それはどうしてかというと、非常 に宇宙は大きい。非常に宇宙は大きいために、非常に遠方の天体を観測すると、例えば百億光 年先にある天体を観測するということは、それは実は、百億年前の天体を観測しているという ことになります。われわれの日常生活では、過去のことを直接調べることはできません。遺跡 を掘り起こすとかそんなことをしなければならないのですが、こと宇宙に限っては、非常にわ れわれは幸運であって、過去の宇宙を直接調べられる。それは遠くの宇宙を調べてやれば、そ れは過去の宇宙を見ているんだということになります。もちろん宇宙はどこでも同じだという 仮定がいるんですけれども、私たちは神に選ばれた特別な民ではないという仮定が要るんです が、宇宙がどこでも同じだとすれば、遠くの宇宙を見れば、過去の宇宙がわかる。直接その暗 黒時代に迫れるということになります。じゃあどうして赤外線でそれを見なければいけないか。 宇宙にはもう一つ特別な事情があります。私たちの宇宙は、実は膨張しています。膨張してい るとですね、これはまた面白い効果をもたらします。実は、これは膨張っていうのは難しいん ですが、空間自身が広がっているという効果があって、もともと可視光線で出ていた、お星様 が出していたような光を、すべて空間が広がるために波長が長くなる。私たちがふだん知って いるドップラー効果って、あの救急車の音がが近づくと高くなったり低くなったりする効果と、 全く同じじゃないですけど、まあ似たような効果が働いてですね、そのために遠方の天体… 遠方の天体は先ほど申しましたように宇宙は膨張しておりますので、そういった意味でどんど んどんどんわれわれから速く遠ざかっています。そのために、元々出ていた光が、どんどんど んどん赤外線に移動していきます。ですから、うんと遠くの天体をわれわれは見たい。うんと 遠くの天体を見るためには、二つ必要。暗いものが見える、高感度の望遠鏡。それからもう一 つ、もともと光で出ていたようなものが全部赤外線で来ちゃうから、赤外線でみてやんなきゃ いけない。その意味で赤外線で暗い、遠くの天体がどれくらいあるか、そんなことを調べてや れば、暗黒の宇宙からわれわれのような複雑な宇宙にどうやって進化してきたか、それが調べ られるのではないか、というふうに期待しています。 2番目に挙げたのは、私たちはどこから来たのか、という疑問です。宇宙というのは、ビッグ バンの時、生まれた時は、実は非常にシンプルだったということが分かっています。元素でい えば水素とヘリウムしかなかった。ほとんど。非常に単純な宇宙でした。そして私たちの身体 を作っているような炭素だとか窒素だとか酸素だとか、こういった複雑な元素は、原始の宇宙 にはありませんでした。その後、お星様ができて、お星様が大爆発をする。超新星爆発という んですが、こういったことを繰り返し、そういったものがあって新たな元素が作られ、またそ の元素が新たな化学反応をして、どんどん複雑な分子になってきた。そういった歴史をして、 私たちの身体を作るような、こんな複雑な重い元素、また複雑な分子が作られてきたというふ うに思っています。実はこういったかなり複雑な分子のようなものを調べる意味で、赤外線と いうのは非常に有効です。われわれが知っているような分子というものは、実は赤外線で見て やると特別なスペクトル線を出すということが分かってますので、そうすれば、ここには例え ば一酸化炭素があり、ここには二酸化炭素がいる、またまた別の分子がいるといったことを、 赤外線で詳しく調べる。分光観測と言っておりますけれども、その分光観測をすると分かると いうことがあります。 さらに、一番最後に申し上げたのは、人類は宇宙でひとりぼっちか。広い意味で言えばこれ は、私たち人間、それからこの地球にいるいろんなもの=生命といったものが、私たちがこと 今まで知っている限りは、この地球の上にしかないんですけれども、こういった生命を育むよ うなものが、外にもあるんだろうか。ということで、私たちは私たちの太陽系だけではなく、 ほかの星がどうやって生まれてきたか。それからその星のまわりで、どうやって惑星が生まれ てきたのか、こういったこともASTRO−Fの高感度の観測を使って調べてみたい、と思っ ています。えーと、残念ながらもちろん、ASTRO−Fが上がったら、上がった次の日に、 どこどこの惑星に8本足の宇宙人がいました、というようなことは残念ながらすぐには言えな いとは思いますし、が逆に、だんだんASTRO−Fの観測を行っていくことで、こういった、 例えばお星様がどこで生まれています、それからそういったどこどこのお星様の周りでは惑星 系が今作られつつありますか、そういったデータがどんどんどんどんたくさん集まってくると 思います。私たちは今まで惑星が作られたということに関しては、こと一つの例、すなわち私 たちの太陽系しかほとんど知らないわけなんですが、ASTRO−Fが上がることによって、 ほかの恒星系でもどうやって惑星が作られつつあるのか、そういったことが調べられるという ふうに期待しております。長くなって申し訳ありません。 大島 また東京から質問を出します。 読売新聞− 読売新聞社です。ASTRO−Fに関して二つほどうかがいたいんですが、打ち上げ て観測して、そのデータが降りてきて、解析した後ですね、スピッツァー(アメリカが200 3年に打ち上げた宇宙望遠鏡)と連動して何か調査ができるとか、そういったことはできる んでしょうか。時間的に間に合うんでしょうか。二つ目は、フェーズ3(打ち上げから約18 ヵ月後、冷却用の液体ヘリウムが枯渇した後の運用計画)なんですが、これあの、冷凍機で もって近赤外線カメラを使うんだと思うんですけど、これの寿命っていうのはいつまでなん でしょうか。 中川− まずじゃあ、簡単なほうから回答させていただきます。ASTRO−Fには液体ヘリウム が搭載されているということを申し上げましたが、それを寿命を長くするために冷凍機が搭 載されています。液体ヘリウムがある時間というのをフェーズ1、フェーズ2と呼んでおり まして、それがトータルでおよそ550日、これは液体ヘリウムの保持時間で決まります。 で、今もありましたようにフェーズ3と呼ばれるのが、機械式冷凍機だけで運用する時間な んですが、この時間はどれだけ続くかというのは、実は正確に見積もることができません。 冷凍機が動く限り、私たちとしては試験を行いたいと思っています。で、私たちが作りまし た冷凍機は地上では、実は5年以上稼動しました。したがって宇宙でも同等に稼動してくれ るものと期待しています。 それからスピッツァーでしたね。今実は赤外線天文衛星というのは、私たちのASTRO −Fがこれから打ち上がりますし、それから実は、2003年の夏に、アメリカがスピッツ ァー・スペース・テレスコープ=スピッツアー宇宙望遠鏡というものを打ち上げました。こ の中にも入れましたように、ASTRO−Fは全天を観測することを得意とし、それからス ピッツァーは細かい部分を観測することを得意としております。われわれはそういう意味で 新しい地図を作りますので、その中で新しい地図の中で面白い天体が見つかれば、詳細観測 をするスピッツァーで観測するということは、ぜひ行いたいことです。残念ながらちょっと プロジェクトの進み具合から、順番が前後になってスピッツァーの方が先に上がってしまい ましたが、スピッツァーは今、5年程度の寿命を期待しておりますので、そういった意味で はASTRO−Fの観測を十分にスピッツァーに反映できる。こういうふうに思っておりま す。実際われわれからもスピッツァーに対して、こういう観測をしたい、これこれこういう 結果に基づいてこういう観測をしたいという提案を出しております。さらにスピッツァーの みならずですね、実はヨーロッパが2007年もしくは2008年に、ハーシェル宇宙望遠 鏡という大きな赤外線望遠鏡を打ち上げるんですが、これはまさにヨーロッパはハーシェル 宇宙望遠鏡のために、ASTRO−Fが作った地図をぜひ活用したいというふうに思ってい ます。そのために先ほども申し上げましたように、ヨーロッパはASTRO−Fに大きな支 援をしている。これはまさに、ヨーロッパの将来の天文観測衛星ハーシェルに、ASTRO −Fの作った地図を、航海に、水先案内人として使いたいと、そういう期待が寄せられてい ます。以上です。 大島− 東京からほかに何かありますか。ないようですので、これで終わってもらって結構だと思 います。 司会− はい、どうもありがとうございました。それでは、こちら側で質問があればと思いますが いかがでしょうか。ないようであればこれをもって終了とさせていただきますが、よろしい でしょうか。それではこれをもちまして、本日の報道公開終了とさせていただきます。本日 はお集まりいただいてありがとうございました。 ※ 録音を文章に起こすに当たって、質問者の氏名は削除してあります。社名の削除を希望され る報道機関は、遠慮なくご連絡ください。掲載希望者もご一報を。また、話し言葉はできる だけ忠実に再現してありますが、「えーと」「あのー」など、省いても意味を取り違える可 能性のない言葉、発言者が言い間違えてすぐ訂正した部分などは削除いたしました。部分的 に聞き取れなかった個所もありますので、ご容赦ください。意味の取り違い、漢字の変換ミ スなどございましたら、ご指摘いただけますようお願いいたします。 記事提供:レイヴン・フォト