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新しい惑星の定義 / 一般向けの解説 /
第26回 国際天文学連合総会による議決より


「惑星(Planet)」とは太陽を回る天体です。「惑星」とは呼べない微小な天体は、 「小惑星(Asteroid)」や「彗星(Comet)」と呼ばれます。 これまで、「太陽系(Solar system)の惑星は[水金地火木土天海冥]の9天体」が、 一般的な常識として受け入れられてきたことは周知の通りです。 しかし、近年の天文学の発展に伴い、惑星と小惑星の境界が曖昧になってきました。 なぜなら冥王星よりも遠方で、冥王星と同等の大きさの小惑星が多数存在することが分かってきたためです。
このままでは混乱を招きかねないため、2006年プラハ(チェコ)で開催された 第26回 国際天文学連合総会(以下 IAU総会)において、「惑星の定義」について議論され議決されました(8月24日)。 この議決は歴史的にも非常に大きな節目といえます。これによって、太陽系の惑星の分類も修正されることとなりました。最も大きな修正は、冥王星を惑星から外し、 太陽系の惑星は、[水金地火木土天海]の8天体としたことです。 今後この議決を踏まえて、教科書や理科学書も記述を大きく変更する必要に迫られることでしょう。

IAU総会の詳しい決議については、「国立天文台 天文トピックス(233)」をご覧頂くこととして、太陽系の惑星は以下の分類となります。

新しい太陽系の惑星の定義 <
太陽系内の 惑星(Planets)
水星,金星,地球,火星,木星,土星,天王星,海王星 の8天体。
* 冥王星は発見以来「惑星」として認識されてきましたが、今回の決議により 惑星の条件を満たさないと判断されました。

また惑星よりも小さな天体(ただし衛星をのぞく)として、新たに 準惑星(Dwarf Planet) 太陽系小天体(Small Solar System Bodies) の分類も定義されました。準惑星 や 太陽系小天体 は惑星ではありません。
準惑星(Dwarf Planet)
ケレス,冥王星,2003UB313
* ケレスは、火星と木星の間を周回する小さな天体で、これまでは小惑星のひとつとされていました。 ほとんどの小惑星はこの領域に存在しており、メインベルトと呼ばれますが、その中で最大の天体がケレスです。
* 冥王星は、惑星と呼ぶには小さすぎるため、この分類に入ることになりました。
* 近年、冥王星付近や、さらに遠い太陽系外縁の小天体(EKBO 又は TNO)が多数発見されています。2003UB313 は、これらの中でも冥王星よりも大きいことが確実視されています。
太陽系小天体(Small Solar System Bodies)
準惑星よりも小さい 小惑星,彗星
* 将来の詳しい分析により、準惑星(Dwarf Planet) に再分類される天体もあることでしょう。


■ さらに進んだ解説 ■
今回の IAU総会の議決は、私達の太陽系について特に定めたものです。
IAU の定めた太陽系の惑星の定義
以下の4つの条件を満たすものを惑星と定めています。
1. 太陽の周りを回る天体
2. 自分の重力により球形の天体
自分の重力で球形となるためには、ある程度の大きな質量が必要となります。
3. その軌道の近くで他の天体を掃き散らした、突出して大きな天体
冥王星はこの条件を満たさないため、惑星から準惑星に修正されました。
4. 衛星ではない天体
近年の天文学の発展により、太陽系以外の恒星系でも惑星(太陽系外惑星)の存在が確認されつつあり、 2006年現在でその数は200個を超えています。このことも、「惑星とは?」の明確な定義づけを必要とする背景となっていました。将来的には、太陽系以外の恒星系でも当てはめることのできる「惑星の定義」も今後議論されるでしょうが、 その場合でも今回の議決を踏襲したものとなることでしょう。
前述の「惑星の条件」を見ると、「惑星と呼ぶための下限」は定められています。しかし「上限」つまり「恒星と惑星の境界線」は 言及されておりません。このことは、太陽系内では木星より大きな惑星は存在しないため問題となりませんが、 他の恒星系について論ずるためには、今後の課題となります。
ともかく現在天文学の差し迫った問題として、「冥王星をどのように分類すべきか?」が10年来の課題となっていましたので、 今回の議決はそれに決着をつけたことが最大の意義といえます。
10年続いた議論「冥王星は惑星か?」
冥王星は、1930年 トンボー(米) により発見されました。冥王星は、軌道が他の惑星の特徴と大きく異なっていたり、 極端に小さな天体であることから、発見の当時から異質な存在とされていました。 現代の指針に当てはめていたら、冥王星は「惑星」と見なされることはなく、「小惑星」と分類されたはずです。
1990年代に入ると、冥王星を含む海王星以遠の領域に多数の小惑星が発見されるようになり、 これらは、エッジワース・カイパーベルト天体(EKBO) とか トランスネプチューン天体(TNO) という小惑星のグループとして 分類されます。そして天文学者達は、「冥王星は惑星ではなく TNO の一天体である」と考える方が適切であるとの結論に達したのです。
折りしも、小惑星の発見数も急激に増加し、ついに 10000個に達しようとしていました。 そこで、1998年 IAU 小惑星センター では、「記念すべき小惑星10000番を冥王星に付与しよう」との 提案を行いました。この提案は、冥王星を惑星から降格させるものではなかったのですが、 「冥王星は惑星として半世紀以上も社会に受け入れられている」などと社会的にも大きな論争を巻き起こすことになり、 結局のところ、実現には至りませんでした。
この騒動は一旦は落ち着いたのですが、根本的な解決ではなかったために、わずか数年でまたも再燃することになります。 2003年 カリフォルニア工科大(米)により 最大級の TNO セドナ(Sedona) が発見されます。この天体の推定直径はなんと冥王星の 3/4 もある非常に大きなものでした。 さらに、2005年には シェラネバダ天文台(米) や カリフォルニア工科大 が競うように、冥王星の大きさに匹敵するほどの TNO を複数個発見したことを公表します。なかでも、カリフォルニア工科大の発見した 2003UB313 は冥王星よりも大きいことは 確実とされ、「太陽系十番目の惑星を発見」と大々的に報道されたことをご記憶の方も多いでしょう。
現代天文学のこのような背景の下、「惑星とは何ぞや」の議論に決着をつけることが急務となっていたのです。

準惑星の定義
以下の4つの条件を満たすものを 準惑星 と定めています。準惑星 にもなれない小天体を総称して 太陽系小天体 と呼びます。
1. 太陽の周りを回る天体
2. 自分の重力により球形の天体
3. その軌道の近くで他の天体を掃き散らしていない天体
4. 衛星ではない天体
すなわち、惑星の定義とは3番目の条件が違います。冥王星やケレスは、その軌道の周辺に多数の類似天体が 残っているので惑星ではなく 準惑星 に分類されます。太陽系小天体の中には、準惑星 に修正されうる候補天体が すでに多数存在します。
ケレスは小惑星から準惑星へ
今回、小惑星から準惑星へ再分類されることとなったケレスは、1801年ピアッチ(伊) により発見されました。 軌道は火星と木星の間にあり、当時の天文学者らは、この領域に未知の惑星の存在を議論していた最中のことでした。 しかし、他の惑星と比べてあまりにも小さく、さらには1802年,1804年,1807年 と立て続けに同じような領域に小天体が発見されたため、これらは惑星とは認められず、ひとくくりに「小惑星」と呼ばれることとなったのです。 この200年前の歴史は、今回 冥王星が惑星から準惑星に修正された事情とよく似ていますね。
ケレスの小惑星番号は 1番で、2006年現在では登録された小惑星は 10万個を越えています。 ケレスは自分の重力で球状をしていることが分っているため、「準惑星」となりました。
※ 1802年,1804年,1807年 に発見された小惑星は、それぞれ、パラス,ジュノー,ベスタ と名付けられ、ケレスと合わせて「四大小惑星」と呼ばれます。 (今後もそのように呼ばれるかは、現時点では不明です。)
小惑星と彗星の区別は?
かつて「小惑星」と「彗星」ははっきりと区別されてきました。小惑星は岩石質の小天体,彗星は揮発成分が多く、太陽に近づき長い尾を引く小天体です。 また、彗星は小惑星よりも極端に細長い軌道を持っていることも特徴的です。
しかし、数十年前からこの区別の困難な天体が見つかるようになって来ました。岩石質なのに長楕円の軌道を持つ天体,性質は小惑星なのにいつのまにか尾を引く天体, など。それに小惑星のグループのひとつとされている TNO は、そもそも彗星の起源ではないかと推測されています。
こうなると、「もはや、小惑星と彗星は本来区別することのできるものではなく、単に個性の違いである」と考えられるようになってきました。 今回の議決では、太陽系内の惑星,準惑星と衛星以外の小天体は、統一して「太陽系小天体(Small solar system bodies)」と呼称することとしています。これは、現代の天文学では、小惑星と彗星の区分の問題が背景にあるものと考えられます。


■ 太陽系の惑星の一覧 ■
以下は、IAU の定める新しい惑星の定義下での太陽系の惑星の一覧です。
名称太陽からの平均距離
(地球までを1とした比率(AU))
公転周期直径発見年発見者備考
水星(Mercury)5,791万km (0.39 AU) 88日 4,880km古代より既知
金星(Venus) 10,821万km (0.72 AU)223日12,104km古代より既知
地球(Earth) 14,960万km (1.00 AU)1年 12,756km
火星(Mars) 22,794万km (1.52 AU)1.9年 6,794km古代より既知
木星(Jupiter)77,830万km (5.20 AU)11.9年142,984km古代より既知
土星(Saturn)142,940万km (9.55 AU)29.5年120,536km古代より既知
天王星(Uranus)287,504万km (19.2 AU)84.3年51,118km1781年ハーシェル(英)
海王星(Neptune)450,445万km (30.1 AU)165年49,528km1846年ルベリエ(仏),ガレ(独)
アダムス(英)

■ 太陽系の矮惑星の一覧 ■
以下は、IAU の定める太陽系の矮惑星の一覧です。
名称分類太陽からの平均距離
(地球までを1とした比率(AU))
公転周期直径発見年発見者備考
ケレス(Ceres)Asteroid41,379万km (2.77 AU)4.6年 952km1801年ピアッチ(伊)
冥王星(Pluto)TNO591,518万km (39.5 AU)249年2,306km1930年トンボー(米)
2003UB313TNO1,012,000万km (67.7 AU)557年(2,400km)2005年ブラウン(米) 他直径は推定値


■ 関連のページ ■
IAU議決直前の 冥王星 (撮影:小石川正弘様)


■ 関連のリンク ■
国立天文台「「惑星」の定義について」
日本惑星協会「冥王星、惑星の座を失う」
横浜こども科学館「冥王星は惑星か 〜 「惑星」の定義」
アストロアーツ「太陽系再編」
第26回国際天文学連合総会ホームページ


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