■ 安全に観察しよう ■■ 鹿児島での見え方 ■
金星は小さいながら面積をもって見えていますので、視力(およそ1.0以上)の良い方ならば、 太陽の表面を黒い小さな金星が通過する様子を観察できるでしょう。もっと詳しい観察のためには、望遠鏡を使うことになります。
しかし、肉眼,望遠鏡のいずれでも強烈な太陽の光を適切な方法で減光する必要があります。
太陽に望遠鏡を向けることはたいへん危険を伴い、直接裸眼でのぞくと失明のおそれがあります。 また、肉眼で観察する場合、プラスチックの下敷きやカメラ用のNDフィルターでは赤外線(熱)を通してしまうため、 長時間見続けると網膜に障害を起こす恐れがあります。
できれば当館のような公共の天文施設を利用して観察して下さい。 自宅で観察される場合には、投影法などの安全な方法で観察して下さい。◎ 日食観測用の保護メガネ
◎ 望遠鏡の観察では、太陽投影版を使用
○ 感光した白黒写真フィルムの切れはし
○ ろうそくのすすを付着したガラス板
× プラスチックの下敷き
× カメラ用NDフィルター
× 感光したカラー写真フィルムの切れはし
※ 投影法など安全な観察方法については、星の子館(兵庫県姫路市) のHPにある「安全に観察するには」に詳しく掲載されています。
金星の太陽面通過は、国内ならばどこでもほとんど変わりなく観察することが出来ます。
鹿児島県は、日本の西に位置するため日没が遅く、その分他の地域よりも長く観察することが出来ます。
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鹿児島における予報時刻 | |
14時11分35秒 | 第1接触(金星の縁が初めて太陽の縁と接する) |
14時30分34秒 | 第2接触(金星の縁が太陽の内側で接する) |
17時13分58秒 | 食の最大(太陽の中心に最も接近する) |
19時19分 | 金星の没 |
19時21分 | 日没 |
データ提供:国立天文台 相馬充氏 |
観察のポイント
見かけの太陽と水星の大きさの違いを実感してみましょう。
この時の金星は、「内合」といって地球に最も接近しています。
「地球-太陽」の距離を10とすると、この時の「地球-金星」の距離はちょうど3程です。
このことから実際の大きさの比較も想像してみましょう。
(金星は地球とほぼ同じ大きさの惑星です。実感できますか?)
太陽の黒点との黒さの違いを比較してみましょう。
黒点は、周囲よりも発する光量が少ないために暗く見えているにすぎません。
金星の移動するスピードを実感してみましょう。
■ 用語について ■
金星や水星の太陽面通過は、日面通過や日面経過
等と、呼称されることもありますが、いずれも同じ現象を指します。どの呼び方が正しいということはありません。
参考:「日面経過」の用語について 相馬充氏(国立天文台 位置天文研究)による解説
太陽面通過から距離を求める概念 |
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ハレーの方法の概念図。地球上のAとB間の距離、観測からθが分かれば金星までの距離が分かる。 図は誇張してあり、実際の角θは非常に小さい。 |
当時、西欧ではすでに、金星を初めとする惑星の運行については、詳しく研究されていました。
しかし、肝心の「地球-太陽」間の距離は精度が不十分で、天文学上の一大テーマでした。
「地球-太陽」間の距離のことを現在でも「天文単位(Astronomical unit)」といいます。
ハレー(英)は、この天文単位を観測から正確に求めるために、この金星の太陽面通過を利用することを提唱しました。
ハレーの存命中に、この現象は起こりませんでしたが、没後3回目の現象となる 1874年には、世界中の先進国が国家の威信をかけて
競って世界中に観測隊を組織したのでした。
これほど大規模,全世界的な観測体制が敷かれたことは、天文学史上かつてないことでした。
フランス隊の観測碑(長崎市) | 経緯度原点確定の碑(長崎市) |
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長崎市金毘羅山にある観測記念碑。1874年の観測を記念してフランス隊により建立されたもの。長崎県指定史跡。 | 天体の位置観測には、観測地点の経緯度を精密に測量する必要がある。1874年の観測の後、チットマン(米)により日本で初めて精密に経緯度が測量された。長崎市金毘羅山。 |
飛躍的に技術の発達した現代では、他の手段によって「天文単位」は極めて精密に測定されています。
このため、天文単位の測定のために金星の太陽面通過を観測する意義はなくなっています。
しかし、この極めて稀な天文現象ですから、歴史的な背景を思い浮かべながら観察すると一層味わいの深いものとなることでしょう。
野心的な方は、当時と同じ手法で、天文単位の測定にチャレンジしてみては如何でしょうか。
※ この章は、佐藤幹哉氏(府中天文同好会)による月刊星ナビ向けの記事と資料を元に作成しました。ご厚意に感謝申し上げます。
近年の金星太陽面通過(参考資料)
1874年12月 9日 | 日本で見られた前回の現象。 | |
1882年12月6-7日 | 日本では見られなかった。南北アメリカ,アフリカ 等 | |
2004年 6月 8日 | 今回。日本では、現象終了前に日没となる。 | |
2012年 6月 6日 | 次回の現象。日本で全経過が見られる。好条件。 | |
2117年12月11日 | 日本で全経過が見られる。 | |
2125年12月8-9日 | 日本では見られない。南北アメリカ,アフリカ 等 |