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2004.06.08 鹿児島で見る金星の太陽面通過


2004年6月8日 14時11分頃〜日没にかけて全国的に「金星の太陽面通過」が見られます。
金星の太陽面通過とは、太陽の表面を金星が通過する現象で、現象のあいだ太陽面に真っ黒な斑点(金星)が ゆっくりと時間をかけて通過していく様子を観察することが出来ます。 太陽面通過は、太陽-金星-地球 がほぼ一直線上に並ぶためにおこります。
前回、日本で見ることの出来た金星の太陽面通過は 1874年12月9日で、なんと130年振りのことです。 次回の現象は8年後の2012年6月6日です。

■ 安全に観察しよう ■
金星は小さいながら面積をもって見えていますので、視力(およそ1.0以上)の良い方ならば、 太陽の表面を黒い小さな金星が通過する様子を観察できるでしょう。もっと詳しい観察のためには、望遠鏡を使うことになります。
しかし、肉眼,望遠鏡のいずれでも強烈な太陽の光を適切な方法で減光する必要があります。
太陽に望遠鏡を向けることはたいへん危険を伴い、直接裸眼でのぞくと失明のおそれがあります。 また、肉眼で観察する場合、プラスチックの下敷きやカメラ用のNDフィルターでは赤外線(熱)を通してしまうため、 長時間見続けると網膜に障害を起こす恐れがあります。
できれば当館のような公共の天文施設を利用して観察して下さい。 自宅で観察される場合には、投影法などの安全な方法で観察して下さい。
日食観測用の保護メガネ
望遠鏡の観察では、太陽投影版を使用
感光した白黒写真フィルムの切れはし
ろうそくのすすを付着したガラス板
× プラスチックの下敷き
× カメラ用NDフィルター
× 感光したカラー写真フィルムの切れはし

投影法など安全な観察方法については、星の子館(兵庫県姫路市) のHPにある「安全に観察するには」に詳しく掲載されています。

■ 鹿児島での見え方 ■
金星の太陽面通過は、国内ならばどこでもほとんど変わりなく観察することが出来ます。 鹿児島県は、日本の西に位置するため日没が遅く、その分他の地域よりも長く観察することが出来ます。

鹿児島における予報時刻
14時11分35秒第1接触(金星の縁が初めて太陽の縁と接する)
14時30分34秒第2接触(金星の縁が太陽の内側で接する)
17時13分58秒食の最大(太陽の中心に最も接近する)
19時19分金星の没
19時21分日没
データ提供:国立天文台 相馬充氏

観察のポイント
見かけの太陽と水星の大きさの違いを実感してみましょう。 この時の金星は、「内合」といって地球に最も接近しています。 「地球-太陽」の距離を10とすると、この時の「地球-金星」の距離はちょうど3程です。 このことから実際の大きさの比較も想像してみましょう。
(金星は地球とほぼ同じ大きさの惑星です。実感できますか?)
太陽の黒点との黒さの違いを比較してみましょう。 黒点は、周囲よりも発する光量が少ないために暗く見えているにすぎません。
金星の移動するスピードを実感してみましょう。

■ 用語について ■
金星や水星の太陽面通過は、日面通過日面経過 等と、呼称されることもありますが、いずれも同じ現象を指します。どの呼び方が正しいということはありません。
参考:「日面経過」の用語について 相馬充氏(国立天文台 位置天文研究)による解説


■ 「金星の太陽面通過」の歴史的な意義 ■

太陽面通過から距離を求める概念
ハレーの方法の概念図。地球上のAとB間の距離、観測からθが分かれば金星までの距離が分かる。 図は誇張してあり、実際の角θは非常に小さい。
前回、日本で観測された金星の太陽面通過(1874年12月9日)は、天文学の歴史上 世界的な注目を集めた現象でした。 日本以外でも世界30ヶ所以上の都市、75地点で観測が行われました。日本へもアメリカ、フランス、メキシコの各観測隊が訪れています。 なぜ、このような世界規模の観測が行われたのでしょうか?

当時、西欧ではすでに、金星を初めとする惑星の運行については、詳しく研究されていました。 しかし、肝心の「地球-太陽」間の距離は精度が不十分で、天文学上の一大テーマでした。
「地球-太陽」間の距離のことを現在でも「天文単位(Astronomical unit)」といいます。 ハレー(英)は、この天文単位を観測から正確に求めるために、この金星の太陽面通過を利用することを提唱しました。 ハレーの存命中に、この現象は起こりませんでしたが、没後3回目の現象となる 1874年には、世界中の先進国が国家の威信をかけて 競って世界中に観測隊を組織したのでした。
これほど大規模,全世界的な観測体制が敷かれたことは、天文学史上かつてないことでした。

フランス隊の観測碑(長崎市)経緯度原点確定の碑(長崎市)
長崎市金毘羅山にある観測記念碑。1874年の観測を記念してフランス隊により建立されたもの。長崎県指定史跡。 天体の位置観測には、観測地点の経緯度を精密に測量する必要がある。1874年の観測の後、チットマン(米)により日本で初めて精密に経緯度が測量された。長崎市金毘羅山。
明治7年のこと、日本は明治維新の間もない頃で西欧文化を積極的に吸収しようとしていた時期でした。 日本は観測条件が良かったため、フランス、アメリカ、メキシコ、の3ケ国が 長崎(仏,米),神戸(仏),横浜(メ) に観測隊を送り込みました。 これらの都市は、外国船も多く入港する港町で巨大な観測機材の運搬に適していました。 これらの観測地には、太陽面通過の観測を記念する碑が建立されています。中でも、長崎と神戸のものは、フランス隊 自ら手によって 残されたものです。
この出来事は、当時の日本にとってまさに「科学の黒船」だったに違いありません。

飛躍的に技術の発達した現代では、他の手段によって「天文単位」は極めて精密に測定されています。 このため、天文単位の測定のために金星の太陽面通過を観測する意義はなくなっています。
しかし、この極めて稀な天文現象ですから、歴史的な背景を思い浮かべながら観察すると一層味わいの深いものとなることでしょう。 野心的な方は、当時と同じ手法で、天文単位の測定にチャレンジしてみては如何でしょうか。

※ この章は、佐藤幹哉氏(府中天文同好会)による月刊星ナビ向けの記事と資料を元に作成しました。ご厚意に感謝申し上げます。

近年の金星太陽面通過(参考資料)
1874年12月 9日 日本で見られた前回の現象。
1882年12月6-7日 日本では見られなかった。南北アメリカ,アフリカ 等
2004年 6月 8日 今回。日本では、現象終了前に日没となる。
2012年 6月 6日 次回の現象。日本で全経過が見られる。好条件。
2117年12月11日 日本で全経過が見られる。
2125年12月8-9日 日本では見られない。南北アメリカ,アフリカ 等


■ インターネットライブを行うサイト ■
以下のインターネットサイトでは、金星の日面通過の状況をインターネットでライブ中継される予定です。
星の子館 (兵庫県姫路市)
那賀川町科学センター (徳島県那賀川町)
西はりま天文台 (兵庫県佐用町):静止画中継
名寄市木原天文台 (北海道名寄市)
かわべ天文公園 (和歌山県川辺町)
南阿蘇ルナ天文台 (熊本県白水村)
Live! Universe


■ 関連のリンク ■
高校生天体観測ネットワーク
国立天文台「金星が太陽の前面を通過します」
アストロアーツ社「2004年6月8日 金星の日面通過」
和歌山市こども科学館「金星の太陽面通過」


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