皆既日食と相対性理論

  一般相対性理論は、アインシュタインによって構築された物理法則です。 日常の生活でこの法則の効果を感じることはありませんが、極めて大きな 空間,時間,質量を扱う宇宙を支配する法則として極めて重要です。 一般相対性理論では、大きな質量の近くを通過する光は、重力の影響を受け て経路が曲げられるとしています。太陽は、極めて大きな質量があるので、 その近くの恒星の位置がずれて見えるはずです。しかし、太陽はまぶしすぎ て近くの恒星を観察することが出来ないので、太陽が隠される皆既日食が利 用されたのです。

相対性理論って何?

  相対性理論は、自然界の 空間,時間,質量 と 運動 の関係を記述する物理学の力学法則です。 相対性理論が登場するまでは、17世紀終盤にイギリスの物理学者ニュートンによって体系化されたいわゆる「ニュートン力学」 が完全な法則とされていました。もちろん現代でも日常のほぼ全ての力学的な運動は、ニュートン力学で正確に記述することが出来ます。
  しかし19世紀終わり頃になると、光の速度(光速)が実験的に求められるようになり、 その結果、光速は何故か変わらないことが指摘されるようになりました。 例えば、飛ぶ鳥を観察するとき、立ち止まっている人と車に乗っている人では鳥の飛ぶ速度は違って見えます。 なのになぜ光速は変わらないのでしょうか? このことは、ニュートン力学では説明がつかないため、実験の方法など他にその理由が求められていました。
   アインシュタインは「真空中の光速は一定である」ことこそが自然界の原理であるとして新しい力学を組み立てました。 これが、1905年に発表された「特殊相対性理論」です。 さらにアインシュタインは特殊相対理論を拡張して、物体の加速と重力の関係をも説明するための「一般相対性理論」(1916年) を発表しました。これらの理論は、絶対的な座標や質量というものはなく、 観測者の運動によって相対的であることを原理としているため、この名称があります。
   現代では、アインシュタイン理論は自然界を支配する根源的な力学法則と して確立しています。

一般相対性理論の検証実験
一般相対性理論による空間のゆがみ
一般相対性理論によると、太陽のような大きな質量の近くでは空間がゆがむ。 このため、直進する光は、空間のゆがみに沿ってすすむので、見かけの位置が異なって観測される。 この挿絵では、理屈を示すために極端に描いているが、実際の空間のゆがみはごく微小なものである。

   特殊相対性理論,一般相対性理論によると観測者の運動によって、 時間の進み方が変化したり、空間が伸び縮みすることになります。 特に一般相対性理論によると、大きな質量を持つ物質の周辺では空間がゆがみ、そのために、 物質の近くを通過する光は直進することが出来ずに、経路が曲がることになってしまいます。
   このように相対性理論によると、常識からかけ離れた結論が導かれるため、 発表された当時は理論に対する懐疑的な見方も根強く、実験や観測による裏付けを重ねる必要がありました。 これらの実験のひとつとして注目されたのが皆既日食です。 一般相対性理論から予測される空間のゆがみは非常に微小であるために、 とにかく大きな質量を持つ物質でないとその効果は見えません。 太陽は極めて大きな質量があるため、その近くに見える恒星の位置を測定することで検証しようという訳です。 しかし太陽は眩しすぎて、通常はとても近傍の恒星を観測することなど出来ません。 そうです。太陽の近傍の恒星を観測できるチャンスこそ、皆既日食だったのです。
   この皆既日食を利用した一般相対性理論の検証では、1919年のエディントン(イギリスの天体物理学者) によるブラジルとギニアに派遣した観測隊が最も有名です。理論が発表された1916年からわずか3年後のことで、 理論の検証の絶好の機会とされたのでした。 そして、この観測から得られた成果は、一般相対性理論を支持するものとして発表されました。

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   日本からも 国立天文台(前身の 東京天文台 含む) や 海上保安庁をはじめとして、 様々な科学的成果を目的のために皆既日食の観測隊が派遣されています。これらのうち、1936年 北海道北見 での皆既日食では、 一般相対性理論の検証観測が実施されています。
今回 2009年の皆既日食においても、鹿児島大学や国立天文台により太陽の内部コロナや太陽系ダスト等の科学的な観測が行われる予定です。


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