2006.11.08 小惑星カリオペと衛星リヌスによる恒星食の観測成果


※ご注意
衛星Linus のカタカナ表記については、当初「ライナス」として記しておりました。 これが誤りというわけではありませんが、語源がギリシア神話でありラテン系の発音である「カリオペ」(Kalliope)と同様に 「リヌス」(Linus)と記す方がより適切と思われますので、今後は「リヌス」と表記いたします。
(2006.11.13)

この話題は、国立天文台アストロトピックス(256) 「小惑星の衛星による恒星食の観測に成功」 でも紹介されました。


2006年11月8日 04時47〜50分、関東地方から東北地方の広域で、小惑星カリオペ(22 Kalliope)と その衛星リヌス(Linus) による 9.1等星(TYC 1886-01206-1)の食が観測されました。

この現象は、IOTA(The International Occultation Timing Association) により予報されていたものです。また、IMCCE J.Berthier 博士(仏)により、 (22)Kalliope の衛星 Linus による食も予報が計算され、IOTA Europe の J.Lecacheux氏(仏)により提供されていました。
そしてこれらのほぼ予報に従って、小惑星(22)Kalliope と衛星 Linus に よる食が関東地方から東北地方の広域で観測されました。
・ (22)Kalliope 本体による食の観測成功 -- 8地点
・ 衛星Linus による食の観測成功 ------- 8地点
・ 通過(食なし)を観測 -----------------11地点
 (2006.11.11現在)
今回のように、掩蔽以外の方法で見つかっていた小惑星の衛星による掩蔽の観測成功は 世界的にも史上初のことです。
この成果は相馬充さん(国立天文台)により、いち早く国際天文学連合に報 告され、同連合の天文電報中央局が発行する中央局電子電報CBET の 732号 (11月10日付け)に発表されました。さらに Dave Herald氏(IOTA, 豪)によ る衛星の位置角と角距離の計算結果を含めたニュースが続けて733号に発表 されました。
相馬充氏による解析の結果は、
・ (22)Kalliope のサイズ : 190 x 125 km 長軸の位置角 0°
・ 衛星Linus のサイズ : 33km
・ (22)Kalliope に対する Linus の位置:離角 0.26" 位置角 313°
です。

ご協力いただきました皆様には、この場をお借りしまして御礼申し上げます。  下図はせんだい宇宙館と相馬充氏による整約計算の結果です。

(上) 相馬充氏(国立天文台)による小惑星(22)Kalliope と 衛星Linus の解析結果
(中) 小惑星(22)Kalliope と 衛星Linus の観測結果
(下) 衛星Linus 部分の拡大

カリオペによる掩蔽
Reduced by Mitsuru Soma(NAOJ). (Update 2007.6.5)

カリオペによる掩蔽
カリオペによる掩蔽
Reduced by Tsutomu Hayamizu & Mitsuru Soma(NAOJ). (Update 2007.6.5)

図中の観測者のお名前において、
*「小石川&花田」は、小石川正弘さま、花田義輝さまの共同観測
*「沖田&庄内」は、沖田博文さま、庄内聡さま、の共同観測
*「高島&大場」は、高島英雄さま、大場富士夫さま、の共同観測
*「柳澤&権正(電通大)」は、電気通信大学(東京都調布市) における、柳澤正久さま、権正健太さまの共同観測
です。また、監物邦男さまと早水勉の観測は、遠方のために図中に収まっていません。

※ 観測結果は星食のメーリングリスト JOIN に公開されたものです

これらの観測成果は、ほとんどが国内のアマチュア観測家により得られた もので、David Dunham博士(IOTA,米)は、「日本の成果は衝撃的で、他の国々 は嫉妬さえ感じることだろう。」との賞賛を寄せられています。同様に、コ ーネル大学の Margotさんからは、「我々はこの小惑星の光度曲線を観測する ことを計画し,それによって小惑星と衛星のサイズを求めようとしていたの だが,あなたがたに先を越された.あなたがたの結果はM型小惑星の密度を 決めるのに大変重要だ.あなたのチームの人たちに,私の心からの祝福の気 持ちを伝えて欲しい。」との祝福をお寄せ頂きました。
ご協力いただきました皆様には、この場をお借りしまして御礼申し上げます。


■ 小惑星(22)Kalliope の掩蔽帯 ■
下図は、実際の小惑星(22)Kalliopeの掩蔽帯と、観測者の配置図です。
は食の観測された地点、 は、通過(食なし)の観測された地点です。ほぼ、予報どおりに食の起こったことがわかります。 東京付近で の密集している部分が衛星Linus による食が観測された地域です。




また、瀬戸口氏による食の解析結果も以下のサイトに掲載されています。
瀬戸口貴司氏(OAA) による小惑星(22)Kalliope と 衛星Linus の解析結果


Dave Herald氏(IOTA,オーストラリア)による解析結果
今回の現象における、IOTA(The International Occultation Timing Association)のDave Herald氏による解析の結果を ご紹介します。
 小惑星(22)Kalliope の断面: 207.3 km(+/-24.5 km) x 132.9 km(+/-19.7 km),長軸の位置角 6.1°+/-12.2°の楕円
 衛星Linus の断面: 35.7 km(+/-3.0km) x 20.0 km,長軸の位置角 -3.8°+/-3.5 の楕円
 小惑星(22)Kalliope に対する衛星Linus の位置: 離角 0.247" +/-0.005" 位置角 314.5° +/- 0.5°
と計算されています。


Kalliope reduction


Linus reduction
Reduced by David Herald (IOTA) (Update 2006.11.11)


Mikko Kaasalainen氏 と Pascal Descamps氏による形状解析
この図の衛星の位置は今回の掩蔽の結果によるものです。小惑星の形状は Mikko Kaasalainen氏 (Observatory, University of Helsinki, Finland) が以前の光度曲線の研究から求めた形状モデルを Pascal Descamps氏(IMCCE,仏)の解析による小惑星の極位置と組み合わせて求めたもの で、今回の掩蔽による結果と良く一致しています。


Produced by Mikko Kaasalainen & Pascal Descamps (Update 2006.11.11)


宮下和久氏(JOIN: Limovie の作者)によるビデオデータの解析 (掲載:2007.1.7)
観測で撮影されたビデオデータは、観測者の皆さまのご厚意により国内外の研究者に送られました。 ビデオ映像の解析ソフトウエア Limovie の作者でもある宮下和久氏による解析によると、 対象星 TYC-1886-01206-1 は、不可視の二重星である ことが指摘されています。


■ 関連のリンク ■
国立天文台アストロトピックス(256) 「小惑星の衛星による恒星食の観測に成功」
アストロアーツニュース 「11月8日明け方、今年最高条件の恒星食」
アストロアーツニュース 「11月8日の小惑星による恒星食(続報):衛星による食の予報」
瀬戸口貴司氏(東亜天文学会)による解析のページ
David Dunham / Some History of Occultations by Satellites of Asteroids


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